見たこともない部屋に通され、普段は絶対座ることを許されないような高級ソファーにスティング、アウル、ステラは横並びで座っている。数分間そのまま無言で待っていると何度か見たことがあるような偉そうなおじさんが三人ほど部屋へ入り三人の前に座る。
 そして重たい口ぶりで一人が話を切り出した。





「ネオ・ロアノーク大佐が、戦闘中に……消息不明となった。」






 ”ネオガシンダ?”









 ―――その瞬間、ステラは目の前が真っ暗になった。











風のようなオアシス。     











「ん、」

「気がついたか?」


 ステラが目を覚ますとそこはいつものゆりかごの中だった。心配そうに自分を覗き込むスティングの姿と退屈そうにこちらを見るアウルの姿が目に映る。
 (どう、して…)
 短時間で全ての記憶を消し去ることは今はまだ難しい。しかしその効果はその都度確実に進化してゆき、ステラの中には先程までの記憶がもはやなくなっていた。


「……体調が悪くて倒れたんだよ。」
「すてら…たおれた?」
「ちゃんと飯くわねぇからだよ。ステラは小食過ぎ!」


 スティングはバツが悪そうにそういったが、アウルは尽かさずステラをからかう口調で話を進めた。ステラはというとアウルの言った”小食”の意味が理解できず一生懸命それを考える。


「とにかく今日からちゃんとたくさん飯食えよ!」
「うんっ!」


 いつもは意地悪なアウルが今日はやけに優しい。ステラはそれが純粋に嬉しく思い、アウルに”ありがとう”と微笑んだ。







 それから数日がたった。ネオの部隊は必然的に解散し、”強化人間の三人はどの部隊に所属するのか”本部はもめているようだ。
 作り出したのは連合本部な筈なのに。いざ、強化人間を扱うとなるとどんなリスクが襲うか分からない恐怖からか、皆嫌がるのだ。進んでソレを扱おうとするのはネオくらいしかいなかった。


「スティング…。今日で10日だぜ?んで、僕達がこの部屋に閉じ込められて10日目。」
「…そうだな。」
「そんだけぇー?!つまんねーっ!」


 アウルはスティングのゆりかごにバタンと倒れこみ子供のようにバタバタと暴れる。そんな様子にスティングはまた大きくため息をつく。


「暇、なんて重要な事じゃないだろ?」
「……。本当か、って事?」
「もう10日だしな。幸い、ステラはまだ思い出してない。」


 ”ネオは本当に死んだのか”
 未だに確証はないのだ。聞いたのは戦闘中に消息不明。だとしたら何処かで生きているかもしれない。そうだとしても手持ちの情報は少な過ぎる。
 アウルは目配せでスティングと会話を始めた。

 (まずは情報収集ってコト?)
 (そうだな。……ステラには、十分注意しろ。)


 (了解!)




 ステラはネオが”すき”だった。ネオが居ない10日だけで何度”ネオは何処?”といった類いの質問を繰り返しただろうか。
 人一倍『死』を恐れるステラ。そんな彼女が一番信頼していたネオが『死んだ』なんて許されることではない。
 こんな風に云うとステラの為だけに動くように見えるかもしれないが、実際それだけではない、ということは彼ら二人にも分かっている。
 ネオは皆に信頼されていた。今分かるのはその真実だけ。


「ネオは僕達で絶対、探し出す。」
















 ―――それからまた3日たった。


 分かったことはネオが戦った相手がアークエンジェル率いるフリーダムで、それは一瞬のごとくネオの乗ったMSは散ったという事実だった。
 信じたくないけれど、それが真実。
 知ってしまった二人は心に大きく穴があいたような、そんな不思議な感覚。


「……どうする?」
「何を?」
「これから。それと…コレ、ステラに言っちゃう?」


 ふたりは悩んだ。きっとステラにとっては知らない方が幸せな真実な筈だ。それに例え知ってしまったとしても、何も良いことはない。


「絶対に黙ってろ。」




 ふたりはもっと前向きに考えてみた。まずステラには言わない。これは二人の中で決定形だ。
 そしてフリーダムを撃つ。そのために必要なのは戦闘に出る、ということ。



「―――早く、戦いたい。」
























「やぁ、おとなしくしてたかね?」


 その日の夕方。13日前に会った怪しい上層部の人間が部屋へやってきた。その男は男にも関わらず薄い紅を牽き怪しい笑みを浮かべていた。怪しさ的にはネオも誰の前でも仮面を外した事がないのだから十分同じぐらい見た目は怪しいのだが。


「なんだよ、おっさん。」
「アウル!」

 スティングの止めも効かずその男はアウルの胸倉を掴み後ろへ投げ飛ばす。飛ばされたアウルはゲホゲホと息が揚がっていて苦しそうだ。
 その様子を後ろから黙って見ていたステラはアウルの元へ駆け寄り声を掛ける。
 そんな様子を尻目に、その男は話し出す。


「私を怒らせない方がいい。…お前達は明日から私の部隊で面倒を見ることとなったのだから。」


 三人同時にその男を睨んだ瞬間だった。


「ロード・ジブリール。覚えておいてくれたまえ。」













 ***








「ステラ…あのひと、きらい。」


 何日かたって移動が命じられた。最初は”ネオの部隊がいい”と駄々をこねたステラもスティングが何とか言いくるめ三人そろっての移動だ。
 そして日に日に積もるあの男への不満。それはステラだけに限ったことではない。


 そんな毎日の不満からか、この後アウルから出た軽率な発言によりそれはいとも簡単に崩れ去る。


「僕も嫌い。あーあ。ネオが生きてたらな。」
「アウル!」


 ”ネオガイキテタラ?”


「ネオ、し、んじゃったの…?」


「ちが、」
「ネオがいない……しんだっ!しんだの!?」


 混乱したステラはアウルに縋りつくように繰り返しそれを聞く。困ったアウルは”違う”とは言い切れずスティングを見た。それと同時にステラもスティングを見るがその表情は実に悲しく、何も言わなくても全てが理解できた。






「ネオは死んだんだ。」











―――その瞬間、ステラは目の前が真っ暗になった。


















END



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ステラ祭り第五弾です!わー、また死ネタっぽくなってしまった(+_<)
ジブリールの名前が分からなくてひっさしぶりに公式サイトに行ってしまいました(笑)
あーこれステラ祭りの中で一番納得いかない出来ですね。すみません。本当はちょっと違ったオチが良かったのにな。
祭り終わったら書き直したいです。


2006/2/9