「ここ、っ、・・・どこ?」
「大丈夫だよ、ステラ。これからは二人きりだ。」


 何もない草原にシンはインパルスを乗り捨て、ステラを両手に抱え歩き出す。ステラの息は荒く酷く苦しそうで彼女自身の力ではもはや歩くことすら出来ないと判断したシンはステラをいわゆるお姫様抱っこをして大切に扱う。

(ステラをあんなところへ還すくらいなら…)

 シンの足取りは速く、どんどんインパルスから離れてゆく。



(・・・いっそ二人で、死んだ方がマシだ。)





何処か、誰も知らない世界へ。    




 ステラが普通の女の子ではない、というのは一緒に居て薄々気がついていたけれど。まさか連合軍の人間で、ファントムペインという造られた人間だということまでは考えたこともなかった。それに加えて艦長達の会話。
 ”生きた実験台が欲しい”
 ステラをまるで人間以外の実験動物であるかのような言い方。ザフトはステラを実験台として欲しがっている。その上連合はステラをこんなに苦しめて…。
 それが分かった今、もはや何も信じれるモノはなくなっていた。


「ステラ、苦しいか?」
「し、ん…、」


 ステラを再度ぎゅっと抱きしめて歩き出す。
 薬がない以上ザフトにステラを置いておく意味がなくなった。だからといってステラを今更連合へ還すことも出来ない。
 そんなシンのとった行動は、戦いのない世界で二人で暮らすといったことだった。
 ステラは長くない。それはこんなに衰弱しきった彼女を見れば分かることだ。殺したいわけではない。助けられるなら助けたい。

(だけど、この世界ではそれは……出来ない。)


 
ステラを連合へ還すこと、と
 衰弱しきったステラと一緒に最期を迎えること



 シンは後者を選んだのだ。
(ステラと、別れたくない。)
 大切に想った。純粋に離れたくなくて。彼女を守るにはこうするしかないと思った。


「し、んっ」
「何だい?ステラ??」
「ねっ、ねお…?ネオは、っ…?」


 ステラはたまに繰り返した。
 ”ネオは何処?”と。
 もちろんシンは”ネオ”を知らない。だがステラがたまに思い出すように繰り返し”ネオ”を呼ぶ。
 ステラがそんなにまで呼ぶ”ネオ”が何なのか。最初は気になって仕方がなかったシンだが今はそんなことすら気にならない。


「僕はシンだよ?大丈夫。守るから。」
「し、ん…?まも、る…っ?」
「うん。守るよ。」


 純粋に幸せだった。ステラと二人きりの空間。ずっと望んでいた。
 シンは近くの大きな木の麓に腰を下ろし、ステラを抱きなおす。彼女の体はものすごく軽い。その軽さに涙が溢れそうになった。


「ごめんな。」
「し、ん…っ?」
「もっと早く出会っていれば…。」


 彼女の真実を見てからいつも思ってた。
 ”自分がもっと早く彼女を見つけていればもっと違った未来を彼女と見出せたのでは?”と。


「……きっと神様なんていないんだ。」
「いな…い、っ?」
「なんでもないよ。」


 シンはザフトの軍服をそっと脱ぐとそれをステラへと掛ける。見上げれば空にはキラキラと星が瞬き始めだんだんと気温が下がっていった。
 (いつのまに。さっきまで綺麗な夕暮れだったのに。)
 先程まで見ていた赤い夕焼けはもうそこにはなく、あるのは暗黒な暗闇だけ。


「…」
「ステラ?」


 空を見上げ黄昏ている間にステラの荒々しい吐息が聞こえなくなっていた。シンはそっとステラの髪を撫で上げそこへキスをする。


「おやすみ、ステラ。」



 そっとシンはステラに囁き、瞳を閉じる。
 最近ずっと”眠る”事が出来なかったシンにもようやく眠りが訪れる。



 そして、それは長い夢の幕開けであった。







END



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ステラたん祭り第A弾です。あたしのシンへの憎しみを込めて書いてみました(´∀`)
シンステでハッピーエンドってあたし妄想できない。
最近シンステ好きだけど今もシンにステラは守れないっていうあたしの意見はそのままです!(笑)


これ、シンステ生きてるか死んでるかは読んでる皆さんの想像にお任せします。
死ネタ嫌いな方はスルーしてね☆



2006/2/6