「近日、ザフトのアーモリーワンからGを強奪しにいく。今回の奪取には強化人間を用いて。」


 ―――突然、小さな会議室に集められた地球軍の幹部たち。薄ぐらい部屋の真ん中には白い軍服の男と、仮面を被った男。
 そしてその後ろに軍服ではなく私服を身をまとった三人の男女。



「お前たちは今日からファントムペイン。第81独立部隊だ。」


 初めてのことがいっぱいで。それに答えるのに精一杯だった。








                     ファントムペイン。







 知っている顔は"ネオ"だけ。
"ネオは優しく自分に接してくれる。だから安心。"


 ステラの記憶にはネオしかなかった。何処で、いつ彼に出会ったのかなんて覚えがない。
 思い出す必要なんてステラにはなかった。

 今日は初めてみる人が沢山いた。皆は難しい話をしている。




(…うみ、)


 もっともステラもその中にいるのだが、聞いてもよく分からない話などさらさら聞く気がない様子で、その会議室の窓から見える海を眺めていた。

 気がつけば話は終わっていて。人がどんどん部屋から出ていく。



(ネオ…?)

 ステラは辺りをきょろきょろと見渡しながらネオを捜す。と、いきなり右肩を掴まれ、振り返るとそこには同い年ほどの男の子が二人。


「お前もファントムペインだってさ。」
「ふぁん…と、?」
「ばーか!ファントムペインだよ!聞いてなかったのかよ!」
「やめろよ、アウル。えっと、初めまして、だな。」
「?」


 何が何だかわからない、といった状態でステラは目を丸くして二人を見つめた。
 少なくともステラの記憶にはない二人の男の子。


「名前は?」
「なまえ…ステラ、」
「俺はスティング。こっちはアウル。」
「すてぃ…、ぐ…?」


 初めてネオ以外の名前を口にするステラ。
 しかしこの二人が何なのかステラにはまだ分からない。


「はぁ?お前馬鹿ぁ?喋れないのかよ!」
「アウルっ!ごめんな、こいつ荒っぽくて。俺はスティング、わかるか?」
「す、てぃんぐ…。」
「そう、でこっちがアウル。」
「あうる…?」


 スティングはゆっくりとステラに教える。




(ステラは言語能力が遅れてるのか…?)





 三人は人工的に強化された人間。
 現実、残酷な実験を繰り返す施設でただ三人、生き残った。
 その戦闘能力はコーディネイター並みのものだ。それはそう、強化人間はコーディネイターに対抗するために軍が生み出した最強の兵器なのだから。




「ネオ…しらない?」
「あの仮面野郎?しらねー。」
「また会議とかじゃないのか?もうすぐアーモリーワン襲撃、なんだろ?」

「あーもりーわん…?」

「お前さっきの何にも聞いてねぇじゃん!」
「さっきネオから聞かなかったか?近々俺たち三人、実践にでるらしい。」


 三人があの施設からこの軍の施設へ連れてこられたのは三日前。
 ネオは施設に居た頃からたまにやってきては声を掛けてくれていた。
 施設では他人は皆、敵。だから時々でも話しかけてくれるネオの存在はステラのなかでは大きな存在となっていった。
 そして今、声を掛けてくれて二人の男の子。


「スティング…と、アウルは…てきじゃない?」
「何いってんだよ!僕たちは今日から仲間!な・か・ま!」
「今日から三人で一緒に戦うことになるな。」
「なかま…?」


 ステラにとって初めての仲間。いや、三人にとって初めての「仲間」という存在。
 施設に居た頃からは想像も出来ない。人との会話。


「ステラ…なかま…。」


















「はぁぁぁぁあああーー!!」


 ーー実践前の最終チェック。

 戦闘中のステラは普段のほんわかした感じとは真逆で、その表情はいつものステラからは想像もできない戦士の顔だった。
 そのギャップに初めは驚いた二人だが三日目にはもうその変化に慣れていた。

 ナイフ・銃・モビルスーツ。あらゆる模擬戦闘を繰り返した三人の戦闘能力は一目瞭然。
 今や、コーディネイターと対等なまでの能力となっていた。


「ステラはナイフ戦凄いよな。」
「うん!ステラ、ナイフ…好き。きれい、だから。」
「ふーん。ま、銃では僕には勝てないけどね!」


 ナイフのキラキラとした輝きが海の水面に似ていて。ステラはその輝きがとても好きだった。

 三人は共通して施設に入る前の記憶がなかった。いや、施設に居た頃の記憶ももはや断片的にしか思い出せない。
 それはネオに指定された眠る前の”ゆりかご”のせいなのだろうか。記憶、そんなものへの執着は三人には全くない。

 薬がなければ生きていけない。逆らえば、死しかない。

 此処での負けは許されないのだから。そして、自分たちは此処でしか生きることができない。





「ステラ、スティング、アウル!」

「ネオっ!」


 最終チェックも終わり、ネオがトレーニングルームへやってきたのはもはや夕刻だった。


「皆調子はどうだ?」
「別に〜。」
「だいじょうぶ!」


 ネオにべったりくっつくステラにももはや慣れた二人。
 それはネオの人柄からなのだろうか。他のお偉い方とは違い、ネオは三人にとても優しかった。


「ついに明日、実践なわけだが。」
「大ー丈夫だって!僕たち第81独立部隊だぜ?」
「最終チェックも問題なしだった。」
「ステラも、へいき!」


 戦う、ということに特別感情のない三人は実践を翌日に向かえわくわくしているようにも思えた。


「…まぁ、宇宙にでれば此処での作戦と違ったことも出てくる。慎重にな!」
「了解。」














 翌日、三人は渡された真新しい軍服に袖を通す。水色のワンピースにピンクの軍服、真っ白なブーツ。
 ネオから渡された軍服にステラはうきうきしていた。


「ステラ、暫く海ともお別れだな。」
「うみ、おわかれ?」
「ばーか!僕たちは今から空にいくんだよ!」
「そら…。ネオも?」
「みんな一緒に、だ。」

「みんな、いっしょ…そら、、うみ、おわかれ…。」


 今一度、ステラは窓から見える海を見つめる。そんなステラにスティングは右手を差し出し、ステラを呼ぶ。




「さぁ、ネオからお呼びだ。行くぞ、宇宙へ。」

「うんっ!」










 ステラたちを乗せたガーティー・ルーは空へと浮上し、宇宙の砂時計を目指す。


「うみ、…うみ!」

 戦艦から外を覗けば、そこは真っ青。前面に広がる海。


「僕、おなかすいたー!」
「もう昼食時間だもんな。よし、ステラも食堂いくか?」

 どんどん遠くなる地球をいつまでも見つめるステラにスティングとアウルは声を掛け食堂へと誘う。


「いっしょ…。」
「何してんの?おいてくよ〜?」
「あ、まって…!」


 ステラは駆け出し、二人から差し出された手をしっかり握り締めロッジを後にした。











next??





***

はい、アーモリーワン襲撃前の連合話です(^△^)

か、書きたかったんです!連合トリオ+ネオ話が!
これも軽く続きそう、というか…。続く、とかいっても絶対更新遅いのでまた気が向いたら増やしていきます!

皆に大切にされているステラたん!とか超萌えです(笑)
個人的には此処にキラ入れたかったけどキラステにしたらまた周りから捏造!といわれるので!(や、これも捏造ですが。)

いつものごとく温い目で見守ってやってくださいー。


2005/04/25